· 

塾講師の苦労話~知られざる現場のリアルと奮闘記

頑張る塾講師のイメージイラスト

塾や予備校の講師と聞くと、華やかで年収も高く、社会の特権階級のように思っている人も少なくありません。しかし、現実はどうなのか。あまり知られていない現場での苦労話などを愚痴も兼ねて今回ブログにしてみました。

【 授業時間が足りない 】

授業時間があまりに長いと、講師に支払う賃金が増えるのでこれを抑えようとするのがどこの塾の経営者でも当然考えることです。また、長い授業時間は生徒からも嫌がられます。そのため、授業時間は1講座につき1週間で40分~90分程度のところがほとんどだと思われます。そんな短い時間内で私たち講師が教えなければならない内容は山ほどあるんです。すべて黒板に書いて説明していたらいくら延長しても足りません。

 

そこで私がしている工夫の一つはプリントの配布です。そのプリンには実はちょっとした仕掛けがあるんです。

授業で配布するプリントのサンプル画像

上の画像は、実際に私が予備校で生徒たちに配布するプリントを一部修正したものです。

 

これは現在完了形の授業で配布するプリントですが、否定文と疑問文の作り方を説明する部分です。ご覧のように例文として、授業中に解説すべきテキストやテストなどの問題の解答をそのまま入れてしまうんです。

 

このようなプリントを配布して授業中に生徒と一緒に読んでいくのです。こうすることによって、生徒たちは、黒板を写さなくても済む上に、テキストなどの答え合わせも同時にできるので、大幅に時間を節約でき、たとえ短い授業時間でも膨大な情報を生徒たちに提供できるわけです。これはノーベル賞級の発明だと自負しています。

 

しかし、このようなプリントを使った授業には問題点もいくつかあります。

 

第一に、中3のような受験学年の生徒たちには非常に好評ですが、中1や中2の生徒たちに対してこれをやると授業が単調になってしまい、たちまち子供たちが授業中に眠くなってしまうことです。なので、中1や中2の授業では、あまりプリントを使わずに極力黒板を写させるようにしています。ただし、その場合でも、文法の説明のために黒板に書く例文は、テキストなどの問題文となるべく同じものを使い、同時に答え合わせができるようにして時間の節約をします。

 

第二に、容易に想像できると思いますが、プリント作成に膨大な時間がかかるということです。しかも、その分の給料が別途出るわけではありません。(涙)  ただ、このようなプリント作成の経験や技術が「高校入試英語教材」の作成時に大きく活かされているので、まあよしとしています。

 

第三に、プリントのコピー代がバカにならないということです。ただ、申し訳ありませんが、その点については塾の経営者の方に泣いてもらうしかないと思っています。(謝)

【 学習意欲の低い生徒 】

どこの塾でも入塾時に試験を課すなどして、ある程度学習意欲の高い生徒を集める工夫をしているものの、本当に学習意欲の高い生徒だけを入塾させていたら、恐らく、日本中のすべての塾は経営が成り立たず潰れてしまうでしょう。そのためにどうしても、私たち講師が勉強に対してヤル気の無い生徒を受け持たざるを得ないこともしばしばあります。

 

塾の経営者の中には、「ヤル気の無い子をヤル気にさせるのが塾講師の使命だ」などと言う人もいますが、そんなことが本当にできたら、それこそノーベル賞ものだと正直思います。私の経験では、「元々ヤル気のある子をさらにヤル気にさせて成績を上げた」ことは数えきれないほどあっても、「ヤル気の無い子をヤル気にさせた」などという魔法使いのような経験は一度もありません。にもかかわらず、経営者側がそんな魔法使いのような講師を理想として求め、受け持ちの生徒の成績が上がらない場合には講師にペナルティーを科す塾も一部にはあるようです。そんな塾で働く講師には苦労が絶えないことになるでしょう。なにせ講師としては不可能を強いられているわけですから。

【 生徒に対する授業アンケート】

授業を受けている生徒たちが各講師の授業についてどのような感想を抱いているかを塾がアンケート調査をして、その結果が塾から講師への評価に影響する、という塾は比較的多いようです。

 

しかし、この「生徒に対する授業アンケート」の実施にはいくつか問題があるとともに、それに振り回される私たち講師の苦労も当然理不尽なものとなります。

 

第一に、アンケートの結果をよくするために、講師はさまざまな工夫をして、生徒たちからできる限りよい評価を得ようと躍起になってしまい、それが時として「生徒の学力向上」という本来の目的(それは同時に塾経営者側が望む合格実績にも影響するはずです)とは相容れない結果になり得ることです。たとえば、生徒にお菓子を配ったり、授業中に替え歌をうたったり、笑い話を延々とするなど、講師が「ウケ」狙いの授業に走ってしまうことです。そこまでいかなくとも、多少授業態度の悪い生徒がいても叱らないようにした方が得策だと考える講師が続出しても不思議ではありません。

 

第二に、この「生徒に対する授業アンケート」の結果については、その講師の授業力を必ずしも正確に反映しているわけではないということです。詳述は避けますが、生徒の成績と授業アンケートの結果には、実は一定の相関関係があることがわかっています。つまり、成績のよいクラスでは比較的授業アンケートの結果もよく、逆に、成績の悪いクラスでは授業アンケートの結果も悪くなる傾向がある、ということです。そうすると、成績のよいクラスを担当した講師の方が当然、成績の悪いクラスを担当した講師よりもアンケート結果がよくなる可能性が高いわけで、これでは経営者側が平等に各講師の授業力を判定できないことになります。さらにもっと本質的な問題があります。アンケート結果で講師を相対評価するためには、そのアンケートに回答した生徒たち(つまり母集団)が講師間で同一でなければ意味がないところ、塾業界では、英語科のA先生が担当する「長文読解講座」と英語科のB先生が担当する「長文読解講座」では当然受講する生徒は完全に別人になることから、比較される講師間で母集団が一致することはあり得ないのです。これを例えて言うと、Aという食品とBという食品の評判を比べるのに、Aは東京都でアンケートを実施し、Bは大阪府でアンケートを実施するようなものです。どちらも同じ都道府県または全国という同一母集団でアンケートを実施しなければ正確な比較はできないということです。たまたまA先生の担当したクラスには批判的で厳しい生徒が多く、逆に、たまたまB先生の担当したクラスには従順で寛容な生徒が多かっただけという可能性も十分にあり得るのです。

 

第三に、実際にこんなこともありました。私の働く予備校でもこの授業アンケートが実施されるのですが、私の担当したクラスの受講生が少なく、アンケートに回答した生徒がたまたま一人だけでした。その生徒はとても私の授業を気に入ってくれて休憩時間でも講師室の私のそばから離れようとしませんでした。ところがその子の回答した授業アンケート結果を見たら、

 

◆授業の「満足度」=不満

◆授業の「熱意度」=無し

 

というもので目を疑うものでした。アンケート回答者が一人しかいないので、満足度と熱意度はどちらも0%になってしまいました。普段のその生徒の様子から考えてさすがに不可解に思ったので、私はその生徒に対して「先生は授業を一生懸命にやってるつもりだけど、ひょっとしたらどこか気に入らない部分でもあるのかなあ? よかったら教えてくれないか。」とやんわりと尋ねたところ、

 

「うん? あれって自分の授業態度に関するアンケートじゃないの? 先生ゴメ~ン!(笑)」

 

「ゴメ~ンじゃね~よ。クビになったらどうすんだよ。」と内心思いましたが、その子には全く悪気はないことなのでそれ以上何も言えませんでした。(涙) そうなんです。生徒によっては、特に学年が低いと授業アンケートの意味を正しく理解せずに回答している子も少なくないということです。

【 ノルマ 】

塾によっては、講師に生徒募集数のノルマが課せられて、講師がそのために電話掛けやビラ配りなどをしなければいけないところもあるようです。そういった塾では、ノルマを達成するために講師が無理な募集活動に奔走することによって、授業力が低下したりヤル気の無い生徒まで抱え囲んだりして、結果的にその塾全体の評判を下げてしまう危険性があります。

【 給料が安い 】

これは意外に思う人が未だに多いようです。もちろんかつては、いわゆる「カリスマ講師」として、年収が何千万円もあるような著名な予備校講師がいたのは確かです。

 

しかし、少子化や長引く不景気のあおりもあり、昨今の現実としては、私も含めてサラリーマンの平均年収と同じか、むしろそれよりも少ない塾講師の方が圧倒的に多いのです。「それってただの謙遜でしょ」と思う人もいるかも知れませんが、もしも本当に「謙遜」なら、私も副業として「高校入試英語教材」をネットで必死に販売なんかしませんよ。どうかその一事でわかってください。

 

みっともない話なので、この話はこれでやめときます。(笑)

【 生活が不規則になりがち 】

とくに現役生を対象とした授業を担当すると、当然、普段は夕方~深夜にかけて仕事をすることになりますが、春、夏、冬の講習会や入試直前の模擬試験の解説となると、いきなり朝から授業ということになることもあります。その結果、私たち塾講師の生活は年中めちゃくちゃに不規則になってしまうのです。あるときは、昼に起床すればよいし、あるときは朝5時に起きなければいけないなんてこともあるのです。若いうちならなんとかなるとしても、ある程度年齢が高くなると、健康への被害が深刻なものになることが懸念されます。

 

そんな大げさな話でなくとも、とりあえずいつも困っているのは、「大便」の時間です。普通の人は「大便」の時間は一日の中でほぼ決まってますよね。でも我々塾講師の場合、生活が不規則なため時期によっては授業中に漏れそうになることがあるんですよ。かつて一度だけ耐え切れずに授業を中断してトイレへ駆け込んだこともあります。(謝) そういった事態を避けようとしたらそのまま漏らすか、その前になんとか頑張ってひねり出すしかないんです。(笑) 汚い話で申し訳ございませんが、実はこれ、ほとんどの塾講師に共通する深刻な悩みなんですよ。

【 塾の近所でバカなことができない 】

これは学校の先生も塾の講師も同じでしょうね。とりあえず「聖職者」の部類ですから。しかも、かつての教え子まで含めたらどれほど多くの人が自分の顔を知っているかということになり、考えただけでもかなり緊張します。

 

かつてこんなことがありました。塾の近くの飲み屋さんで酔っ払って、その店の常連客と盛り上がってしまい、私はベロンベロンになり、いわゆる「放送禁止用語」まで連発してバカ騒ぎをしていました。するとその店にいた学生アルバイトらしき、かわいらしいカウンターレディーさんが、「先生、先生ですよね。お久しぶりです。中学のときお世話になった●●です。覚えてますか?」と言うのです。よく見たらかつての私の教え子だったんです。私はみるみるうちに血の気が引き、一気に酔いもさめて苦し紛れに発した返答が、

 

「お~●●、久しぶり!まじめに勉強してるか?」

 

で、その教え子は「一体どの口が言うんですか」と言わんばりの呆れた表情でした。(笑) かつての教え子の前でぶざまな大人の醜態をさらしてしまい、もう恥ずかしくてその店には二度と行けませんでした。

【 モンスターペアレンツ 】

もうずいぶん古い言葉ですが、学校だけでなくもちろん塾でもしばしば出現します。

 

「電話の対応が悪い」「教え方がなっとらん」「うちの子がヤル気にならんのはお前のたちのせいだ」など、理不尽なクレーム対応に追われたり、場合によっては、そういったクレームが原因で経営者からお目玉を食らうことさえあります。

 

もちろんそういった顧客からの理不尽なクレームはどの業界でもあることとして、たいていのことは我慢できるのですが、かつて、保護者と生徒を交えての三者面談をしたときに志望校選択に関して親子で意見が合わず、親御様がその場で子供に暴力をふるったこともありました。かわいい教え子と大事な親御様との板挟みになり、このときほど塾講師を辞めたいと思った辛い経験はありませんでした。

【 まとめ 】

それでも塾講師という仕事は、ヤリがいのある仕事だと私自身は思っていますし、塾講師として誇りも持っています。なぜならば、無限の可能性を秘めた子供たちと出会うことができ、同時に、世の中に大きく貢献できる人材として彼らを社会へ送り出すことができる職業だからです。

 

でも、もしも「将来塾講師になりたい」などと本気で考えている若い人がいたら、私はたぶん「やめとけ」と言うでしょう。(笑)